油圧クラッチの重さ軽減

油圧クラッチのレバーの重さはどう決まるんでしょうか?
考える要素は、油圧レシオとマスターシリンダーによって押し出される油量です。

一例として、下記の組み合わせを考えてみましょう。
 
クラッチマスターシリンダー ピストン径φ14
クラッチスレーブシリンダー ピストン径φ36
 
油圧レシオは面積比ですから、(36/2)^2/(14/2)^2 = 6.61 です。
パスカルの原理により油圧(単位面積あたりの力)は常に一定ですから、ピストンに掛かる力は油圧レシオが大きいほど大きくなります。
つまり、マスターシリンダーのピストンに1kgfの入力を加えると、スレーブシリンダーは6.61kgfの力で押し出されるのです。
 
イメージ 2
 
 
実際に、クラッチを切ることを考えてみましょう。
クラッチをリフトさせる力、これがスレーブシリンダーに掛かる力ですが、仮に100kgfとします。
考え方は先程と逆ですね。スレーブシリンダーに100kgfの力が掛かる場合、マスターシリンダーのピストンには、100/6.61 = 15.1kgfの力が掛かるのです。
 
 
イメージ 3
 
 
 
ということは、レバーを軽くしたければ、単純に油圧レシオを上げればよいのでは?
例えば、ピストン径をφ36→φ38にするとします。油圧レシオは (38/2)^2/(14/2)^2 = 7.37 となり、11.1%のアップです。
先程の式に当てはめてみると、マスターシリンダー側の反力は100/7.37 = 13.6kgf となります。もちろん11.1%のダウンです。
 
イメージ 4
 
 
ならば油圧レシオをもっと大きくすれば、レバーは更に軽くなるのでは?
ところが、そう簡単ではありません。
クラッチを切るためには、レリーズシリンダーをストロークさせなければなりません。油圧レシオを大きくすると、このストローク量が足りなくなるのです。
 
イメージ 1
 
 
例えば先程のクラッチにおいて、クラッチレバーをフルストロークさせると、スレーブシリンダーが4mmストロークしていたとします。
この時に、スレーブシリンダーを押し出した油量は、ピストンの面積*ストローク量なので、(36/2)^2*3.14*4 = 4069.44mm^2 です。
 
ここでピストン径をφ36→φ38に変えるとどうなるでしょう。油圧レシオは(38/2)^2/(36/2)^2 = 1.11なので、11%アップとなります。
ピストン面積は、(38/2)^2*3.14 = 1133.54mm^2 です。ストローク量をLとすると、マスターシリンダーの送り出す油量は変わらないので、1133.54*L = 4069.44 であり、L = 3.59mm です。
つまり、ストローク量は0.41mm減ることになります。
参考までに、油圧レシオを30%上げるとストローク量は3.08mmにまで減少します。
無闇に油圧レシオが上げられない理由がこれです。
 
 

と言う訳で、油圧クラッチを軽くする手法のまとめです。
 
1) クラッチが切れるストローク量とフルストローク量を測る。
2) クラッチが切れるポイントのクラッチレバーのストローク量を決める。
3) 2)で決めたストローク量から油圧レシオの上げ幅を算出する。
4) 3)の上げ幅からマスターシリンダー、もしくはスレーブシリンダーのピストン径を決める。
5) レバー荷重低減率を求める。 

一例です。
 
1) クラッチレバーのフルストローク量が70mm(遊び除く)で、クラッチが切れるポイントは45mmだった。
2) 切れるポイントを50mmにしてもいいかな?(切れるまでのストローク量を5mm増やしてもいいかな?)
3) クラッチレバーのストロークに対するレリーズシリンダーのストローク量は45/50 = 0.9 倍になる。
4) ピストン径の変化率 = ストローク量の変化率である。
マスターシリンダーを変更するならば、ピストン径は14*0.9 = 12.6mm。近い物では1/2インチ(12.7mm)となる。
逆にスレーブシリンダーを変更するならば、ピストン径は36/0.9 = 40mmとなる。
もちろん合わせ技も可能。
5) レバー荷重低減率 = 油圧レシオの変化率であり、油圧レシオは (14/2)^2/(12.7/2)^2 = 1.22。よってレバー荷重は22% 低減される。

以上が油圧レシオから算出する、油圧クラッチの重さ軽減方法です。
他にもマスターシリンダーをラジアルにする(フリクションロス低減)、レバーを長い物に換える(テコの原理)などが考えられますね。
 
油圧クラッチの重さに悩んでいる方の参考になれば。
 
 
 
△1 一部の数値が間違っていたので、コッソリ直しました…。