チタンのホントとウソ

前回の記事からすっかり間が開きましたが…第2弾です。
今回はチタンです。バイクのパーツのみならず、人体の修理にも使われますね(涙)
そのチタンとチタンパーツについて、ホントとウソに迫ってみましょう。
 
早速ですが、鉄からチタンへ材質を変えるとどうなるでしょうか?
下記はチタンとアルミ、鉄の物性を比較した表です。
 
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1)重量
64チタン(Ti-6Al-4V)の比重は鉄(S45C)の57%ですから、かなり大きな違いです。
鉄のボルトが合計10kgあったらそれが5.7kgになります。単純に材料を置換するだけでこれだけの効果が得られるのですから、ワークスマシンにこぞって採用されるわけですね。
 
2)剛性
単純に軽くなってその他の要素がまったく変化しないのならば話は単純なのですが、そういうわけにはいきません。鉄とチタンではヤング率が違います。
ヤング率については前回も書きました。簡単に言うと、この値が大きいほど歪みにくく、剛性は高くなります。
S45Cと64チタンのヤング率を比較すると、64チタンはSS400の56.6%しかありません。ということは、単純にS45Cから64チタンに材料置換すると、剛性は56.6%落ちるのです。クロモリと比較しても(同じ鉄なので)ほぼ同じです。
具体的に言うと、同じ荷重での変形量が100÷56.6=1.76倍になるのです。ですので、剛性が求められる部位では、単純に鉄からチタンへ材料置換してはいけないのです。
片持ち梁のイメージで描くとこんな感じです。
イメージ 2
 
100kgの荷重を掛けたときにS45Cが10mm曲がる(弾性域)とすると、T-6Al-4Vは、18mm(17.6mm)曲がります。
これは逆に言うと、弾性に優れるとも言えますね。チタンボルトを締めた時の伸び感、これはこの特性から来ているといえます。
 
チタンは高剛性ではないと説明しましたが、巷では剛性アップするって書いてあるぞ!と言う方もいらっしゃるでしょう。これは場合によっては嘘ではないでしょうが、正確ではありません。(残念ながら、まるっきりデタラメな解説も多々ありますが…)
物性上、鉄の物をそのままチタンに置換すると、必ず剛性は下がります。なので、厚さを増やすなどして、形状(断面係数)を変えるのです。チタンの比重は小さいので、多少肉厚にしても(断面係数を増やしても)、軽さの取り分は十分にあると考えられます。
しかしながら同径の無垢の棒同士ですと、その違いは物性のみです。よって鉄からチタンにすると必ず剛性は下がります。(例えばキャリパーの締結ボルトとか…)
 
3)強度
チタンの強度がどの程度かは、引っ張り強度を見れば分かります。
64チタンならば、S45Cの約1.4倍、クロモリ(SCM420)と比較しても同等の引っ張り強度があります。ただし強いのは64チタンなどのチタン合金であり、純チタンはS45Cの約半分の強度しかないことにも気をつけなければいけません。純チタンの引っ張り強さは、高強度のアルミ合金(A7075-T6など)以下です。安売りされている正体不明のチタンボルトは要注意です。
 
前回の記事にも書きましたが、剛性と強度を混同してはいけません。64チタンの強度は鉄より高いですが、剛性は低いのです。要は「壊れないが柔らかい」と思って貰えればOKです。
 
余談になりますが、バイクでチタンフレームがなかなかうまくいかないのは、この剛性と強度、重量のバランスが取りにくいのだと思います。狙いの剛性を出そうとすると思いのほか重くなってしまったり、パイプのサイズが大きくなってしまったりするのではないかと。鉄パイプならトラスorクレードル、アルミならツインスパーなど、材料によってフレーム形状が違うことを考えると、チタンを使うのならばまったく新しいフレーム形態にしないとダメかもしれませんね。

話が脱線しました。
ここまでで、チタンの特性が分かってきましたでしょうか?
1) 鉄より軽く
2) 鉄より剛性は低く
3) チタン合金ならば鉄以上の強度
ですね。

世の中にはいろいろなチタンパーツが溢れています。
すべてが十分な検証の元に作られていれば良いのですが、広告を見る限り、なんとも怪しい物があることも否定できません。某有名メーカーの解説も、商品そのものはともかく、広告では剛性と強度を混同していたりします。困ったものです。
ボルトひとつにしても、単純に交換するだけでは剛性UPなど望めません。チタンは引っ張り強度が高いので、締め付けトルクを上げて締める事が出来、締結剛性を上げることが出来るのですが、実際には先に座面が座屈を起こす事が多いですね。
加えて言うならば、交換される元のボルトが10.9級以上の高力ボルトの場合は、64チタンといえども引っ張り強度は下がります。
 
話はまた逸れますが、ボルトのネジ部や座面にグリスやオイルを塗布すると(ウェット締付)摩擦係数が下がるので、軸力(ボルトの軸方向に働く力)が上がります。場合よっては、同じトルクで締めても、ウェット締付の方がドライ締付より50%も軸力が大きい場合もあるので、要注意です。
(ですので、ドライ締付の純正鉄ボルトからウェット締付けのチタンボルトに変えると、軸力が上がり、結果的に締結剛性が上がる場合もあります。相手物が座屈などを起こして壊れないことが前提ですが)
締結や軸力については、また別に解説が必要だと思います。いずれかの時に。。。
 

非常に簡単に説明してみましたが、チタンの特性がお分かり頂けましたでしょうか?この文章を通して、チタンってこんなものなんだ、物性ってこう考えるんだ、とのキッカケになれば幸いです。

ではでは。